2015/12/31

年の瀬のあれこれ。



26()
“イヤー・エンド・シネマ”として白羽の矢を立てた『ヴィオレット ―ある作家の肖像―』(製作国/フランス、監督/マルタン・プロヴォ)を観に神保町の岩波ホールへ。

 映画の舞台は193060年代のフランス。1907年、私生児として生まれ、生涯にわたり人格的に問題のある母との愛着をひきずりながら、その苦しみの中で小説を書くことに目覚め、自らの生と性を赤裸々に綴って当時の文学界に衝撃を与えた実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの“心の旅路”を描いた作品。

自意識が強く、愛に飢えたヴィオレットの姿に、冒頭からヒリヒリするような緊張感がスクリーンに漂う。男性にも女性にも激しく愛を求め、激しく傷つくというストーリー展開に合わせて、観ているコチラの気分も重くなっていくのだが、その「自己否定」の深さに心を突き動かさられるようで目が離せない。
そして物語は、彼女の作家としての才能を見抜き、人生と精神のすべてを書くことに注ぎ込むよう励ましサポートする「シモーヌ・ド・ボーヴォワール」との出会いから、「男性中心社会」に叛旗を翻した二人の女性の闘い&魂の葛藤という別の色彩を帯びてくる…

というわけで、かなりアタマもココロも疲れるキツい映画だが(そのせいか、土曜の午後なのに観客は少なかった)、非常に刺激的で胸と脳にズシッとくる作品、静かな開放感に包まれるラストも良かった。「付け鼻」をつけてヴィオレット役を熱演したエマニュエル・ドゥボス、知性に満ちた毅然とした美しさでボーヴォワールを演じたサンドリーヌ・キベルランに心から拍手!(遅ればせながら「勝手にコトノハ映画賞」の助演女優賞はサンドリーヌ・キベルランに決定です)

夜は、新宿「鼎」で高校時代の部活仲間4人と忘年会。年のせいか、持病の話と仕事の話が多かった感じ。でも、「安保法案」「慰安婦問題」など、政治話も少々。みんな、「安倍政権」がイヤということでは一致していた。

27日()
有馬記念の勝ち馬は「ゴールドアクター」、父の名前はスクリーンヒーロー……映画好きとしては、やはりこの馬からいくべきだったかと少し悔やんだ。

29()
18時から新宿で今年最後の忘年会。NOWAビル8階「響」に旧知のメンバー10人が集まった。(幹事は例年通りワタシ)
今年もわざわざ新潟から来てくれたKAMEに、「今年も幹事、ごくろうさん」と銘酒「鶴齢」の大吟醸を頂く。
で、ここは安倍内閣不支持率100%の会……ビールで「再会に乾杯」の後は時事ネタ、宗教ネタお構いなし。専ら映画、文学、スポーツなどの“文化担当”の私が、時折交わされるアカデミックな話題に、下世話な彩り(突っ込み?)を加えながら話が弾んだ。(中には、「カミさんから預かってきた」と、“戦争法の廃止を求める統一署名”用紙を配る手合いも……私は、さしたる意味を感じないので、まったく書く気なし。代わりにMIYUKIさんの写真集を「欲しい!」という2人に贈呈)

さらに会が進んで〆近く、元中学教師のK君が「〇〇君に、読んでもらいたくて」と、自分の句が載っている118日の朝日新聞の12面「朝日俳壇」のコピーを少し離れた席から持ってきてくれた。

戦争法の通りし未明獺祭忌

選者は「金子兜太」ということで、ナットクの一句。“子規如何に”という兜太さんの短評も添えられていた。※「獺祭忌」は、正岡子規の命日。

二次会は、NOWAビル近くの「カラオケ館」……ほどよく酔いながら私が歌ったのは、陽水の「MAP」、サザンの「イヤな事だらけの世の中で」、そしてブルーハーツの「人にやさしく」の3曲。のどの調子もそこそこ良く、イヤー・エンドを気持ちよく〆ることができた。

以上、今年も残すところ数時間。来るべき2016年が、皆さまにとって良い年でありますように。

2015/12/23

勝手にコトノハ映画賞(2015)



《外国映画部門》
●最優秀作品賞
『パレードへようこそ』(製作国:イギリス/監督:マシュー・ワーカス)

●優秀作品賞
『おみおくりの作法』(製作国:イギリス・イタリア/監督:ウベルト・パゾリーニ)

●監督賞
ウベルト・パゾリーニ(『おみおくりの作法』)

●主演男優賞
エディ・マーサン(『おみおくりの作法』)※誠実で実直…その人生に幸あれ、と思いきや。
コリン・ファース(『キングスマン』)※渋い英国俳優のキレキレのアクションに。

●主演女優賞
アンジェリ・バヤニ(『イロイロ ぬくもりの記憶』)※頑なな少年の心を溶かした異国のメイド「テレサ」。その厳しい生活と素朴な人柄に。

●助演男優賞
サイモン・ペッグ(『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』)※イーサン(トム・クルーズ)との絶妙な掛け合いに。

●助演女優賞
該当者なし。

●特別賞
『愛と哀しみのボレロ』デジタル・リマスター版(製作国:フランス/監督:クロード・ルルーシュ/製作年:1981年)※圧巻、ジョルジュ・ドン!
『ボーダレス ぼくの舟の国境線』(製作国:イラン/監督:アミルホセイン・アスガリ)※戦時下で生きる少年の眼差しに。

 《邦画部門》
●最優秀作品賞 
『恋人たち』(監督:橋口亮輔)

●優秀作品賞
『この国の空』(監督:荒井晴彦)
『さよなら歌舞伎町』(監督:廣木隆一)

●監督賞
橋口亮輔(『恋人たち』)

●主演男優賞
小林薫(『深夜食堂』)※マスター、ぜひ来年もよろしく!

●主演女優賞
成嶋瞳子(『恋人たち』)※今年最も衝撃的だった女優さん。
二階堂ふみ(『この国の空』)※言わずもがなの演技力&存在感。
戸田恵梨香(『駆込み女と駆出し男』)※演技派女優として成長一途。

●助演男優賞
黒田大輔(『恋人たち』)※破裂寸前の心に寄り添う“隻腕の元過激派”。

●助演女優賞
イ・ウンウ(『さよなら歌舞伎町』)※その潔さ、圧巻の演技力。もう、別格。
安藤玉恵(『恋人たち』)※シリアスな作品の中で、異彩を放つ独特の存在感。

●長編ドキュメンタリー映画賞
『戦場ぬ止み』(監督:三上智恵)


※今日は、北海道の友人SINYAから送られてきた「長芋」のおすそ分けついでに、武蔵関の蕎麦屋「にはち」でMIYUKIさん、UEちゃんと会食(ランチ)。昼からビールと熱燗&美味い蕎麦と天ぷら、そばがき等でいい気分。話も弾んだ。夜は、友人の大学教授(経済学者)N君がテレビ出演ということでBS朝日夜9時放送「昭和偉人伝」に注目。「丸井」の創業者・青井忠治にスポットを当てた番組だったが、N君は丸井の労働争議に関連してのインタビュー出演…たった1、2分でやや拍子抜け。でも、元気そうで何より。彼も含めた旧友たちとの忘年会(29日)のネタにしようと思う。

2015/12/17

マリリンモンロー・ノーリターン…

と、昔よく口ずさんでいた覚えがある。(たまに“ノータリーン”と歌詞を変えたが)

先週の水曜(9日)、作家・野坂昭如氏が85歳の生涯を閉じた。

『エロ事師たち』『アメリカひじき・火垂るの墓』『騒動師たち』『てろてろ』など、青春期、最も読み親しんでいた作家の一人だったが、いまも思い出として残っているのは、数多の小説より参院選への出馬。

もう40年以上も前になるだろうか……当時、まだ存命だった祖母が(明治生まれながら「女も家に縛られず、社会に出て自立すべし」という進歩的な考えの持ち主で、自らも「職業婦人(美容師&宝石商?)」として生き、女手一つで子どもを育て、叔父を東大、母をYWCAに進ませてくれた人)、「選挙、誰に入れようかね。お前は誰がいいと思う?」と私に聞いてきたので、即座に「野坂昭如に入れなよ」と言い、「焼け跡闇市派」の“非戦”思考や「火垂るの墓」について暫く話した記憶がある。

それまでは常に自分の意思で、日本共産党に一票を投じ続けてきた生粋の平和主義者の祖母が、なぜ、その時だけ急に二十歳そこそこの孫に意見を求め、それに従おうとしたのかは、未だによく分からないが、「社会のレールには乗らない」と言いつつ腰が定まらず、さしたる知識も技能もないまま“社会運動”にのめり込み、将来の見えない不安定な生き方をしていた私のことを気にかけ、選挙をきっかけに話がしたかったのかもしれない。

そして、祖母は選挙嫌いの私に代わって「野坂昭如」に一票を投じたが、善戦空しく野坂は落選。「ダメだったね」と二人で苦笑いした1974年の夏だった。

その後も「お前の話は面白いね~」「どこか人と違う魅力があるよ」などと持ち上げながら、私の個性と感性を認め励ましてくれた祖母……私もシャキッとした佇まいながら時折とぼけたことを言う彼女のことが好きだった。(キセルで刻み煙草を吸う仕草も、明治女の気骨が感じられてカッコ良かった)

いま、彼女が生きていて、こんな自分と日本の姿を見たらなんと思うだろう。(私に関しては、「とても立派になったとは言えないけど、いい仲間に恵まれて、お前らしく何とか自分を曲げずに生きているようだね~」と笑ってもらえると思うが)

「近頃、かなり物騒な世の中となってきた。戦後の日本は平和国家だというが、たった1日で平和国家に生まれ変わったのだから、同じく、たった1日で、その平和とやらを守るという名目で、軍事国家、つまり、戦争をする国にだってなりかねない」

亡くなる数日前、野坂昭如は、盟友・永六輔のラジオ番組にこんな手紙を寄せたそうだ。

 

2015/12/16

ひとり贅沢な一日。(本と映画と生ビール)



先週末、(たぶん)2015年最後のコピー(某ホテル予約代理店のHP用「社長メッセージ」)を書き終え、昨日(15日)は、本業もバイトもない気ままな一日。

007スペクター』は既に観終わり(ダニエル・クレイグの渋いボンドも、これで見納めか?)、特に食指を動かされる映画もなかったが、多少懐に余裕のある折角の休み。家で燻っているのももったいない気がして、“面白い!”と評判の韓国映画『ベテラン』に目をつけ、新宿に向かった。

副都心線で「新宿3丁目」に着いたのは11時。明治通り沿いの新宿文化ビル6階「シネマート新宿」でチケットを買い(上映開始12時)、すぐに外へ出て近くの「PRONTO」で時間潰し。カフェオレを飲みながら、残り20ページ余りの小説『服従』(ミシェル・ウェルベック著)を読み終えた。

2022年のフランス大統領選挙の決選投票で、イスラーム政権が成立する……という話。

まさにタイトル通り、超越神と国家権力への「服従」……主人公(フランソワ)が積み上げた知識・教養をあざ笑うかのようなラストに唖然とし、思わず「マジか?!」と呟いてしまった。(知識は脆く、インテリは弱し……という結末は、「誰も信じるな」「なにも信じるな」という作家の警告だろうか)

で、その脱力感を引き摺りながら観た『ベテラン』だが、脱力解消に効果アリの適度に笑える痛快エンタメ。不正を重ねる大財閥(のバカ御曹司)と戦うベテラン刑事&彼の仕事仲間の物語という、よくあるパターンだが、そこは韓国映画らしく迫力あるアクションシーンとテンポの良い場面展開で飽きさせない。『国際市場で逢いましょう』の主演・助演コンビ、ファン・ジョンミンとオ・ダルスがいい味を出していた。

映画の後は、「船橋屋」の天ぷらをつまみながら生ビールという、一人ちょっと贅沢なランチタイム……

さて、話は戻るが、小説『服従』で特に印象に残ったのは、主人公にムスリムへの改宗を勧める「ルディジェ教授」の言葉。

「ファシズムはわたしの目には、死んだ国家に再び生命を与えようとする、幽霊または悪夢のような偽りの試みと映っていました。キリスト教がなければ、ヨーロッパの諸国家は魂のない抜け殻に過ぎないでしょう。ゾンビです。しかし、問題は、キリスト教は生き返ることができるのか、ということです。わたしはそれを信じました。何年かの間は。それから、疑いが強くなり、次第にトインビーの思想に影響されるようになってきました。つまり、文明は暗殺されるのではなく、自殺するのだ、という思想です。」

「『O嬢の物語』にあるのは、服従です。人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです。」
「女性が男性に完全に服従することと、イスラームが目的としているように、人間が神に服従することの間には関係があるのです。お分かりですか。イスラームは世界を受け入れた。そして、世界をその全体において、ニーチェが語るように『あるがままに』受け入れるのです。仏教の見解では、世界は『苦』、すなわち不適当であり苦悩の世界です。キリスト教自身もこの点に関しては慎重です。悪魔は自分自身を『この世界の王子』だと表明しなかったでしょうか。イスラームにとっては、反対に神による創世は完全であり、それは完全な傑作なのです。コーランは、神を称える神秘主義的で偉大な詩そのものなのです。創造主への称賛と、その法への服従です。」
「イスラームは、儀式的な目的での翻訳を禁止したただひとつの宗教です。というのも、コーランはそのすべてがリズム、韻、リフレイン、半階音で成り立っているからです。コーランは、詩の基本になる思想、音と意味の統合が世界について語るという思想の上に存在しているのです。」

これらの言葉を踏まえてなお、キリスト教、イスラーム教に、自分のアイデンティティを委ねるのではなく、その差異を理解し、それを受け入れ、それに捉われることなく「自分の頭で考え、自分の感性で判断せよ!」と、『服従』は、逆説的に服従しないための人間の在り方を示した小説なのかもしれない。

それにしても、なぜか今年は政治や宗教に関わる小説ばかり読んでいるような気がする。「政治的」でも、もちろん「宗教的」でもない人間なのに……(やはり、支持率V字回復の安倍政権のせいだろうか。このまま来年も、安倍政権とアメリカに「服従」し続けるなんて、あ~、ニッポンが情けない)

2015/12/03

こんな邦画が観たかった。(『恋人たち』)



先月中旬(17日)、テアトル新宿で観た映画『恋人たち』……(個人的には2015年度ベスト1の日本映画になるはず)

何がイイって、まず、原作・脚本を含め監督・橋口亮輔の100%オリジナル作品であるということ(こういう映画が少なすぎる!)。
「台本を書くのに8か月もかかってしまった」と監督自身が言うように、無名の役者たちとのワークショップを重ねながら、丁寧に、緻密に、惜しみなくエネルギーを注いで作られた映画だというのが、彼らが発するリアルな台詞、その日常から醸し出される焦燥感、徒労感、倦怠感など繊細な心理描写によって、よく分かる。(時折、ドキュメンタリー映画を観ているような錯覚に捉われるのも、映像にウソ臭さがまったくないからだろう)

そしてスクリーンに映し出されるのは、自分の居場所や立場を確認できないまま、幸せという幻想に翻弄される人々と様々な恋人たちの姿。その姿から今の日本社会を覆う冷たい空気が見えてくる。
(とりわけ印象的だったのは、どこにでもいそうな平凡な主婦・高橋瞳子を演じる「成嶋瞳子」の圧倒的な非凡さ。情事のあと乳房丸出しでお茶を入れ、束の間の炎のような夢を身体から消し去るように野原で放尿、咥え煙草……「性的魅力に欠ける女」の潜在的な渇望と諦念を、ほとんど表情を変えずに表現しきった演技力と存在感は、「スゴイ!」の一言)

「今は言いがかりが通る時代なので、映画もテレビも自主規制が厳しくなっています。この風潮が進んでいくと、社会の問題には目を向けられなくなって、本当に小さな話しか生まれません。クレームが怖いからといってあらかじめ自粛すれば、恋愛とか、家族とか、そういった当たり障りのない題材しか描けなくなります。塚本晋也監督は、今撮らないといけないと思って『野火』を作りましたが、ああいう意欲的な作品を作ろうと思ったら自主映画しかありません。そんな状況を変えていかないといけないなと思います」
「言いがかりを付けられた側が、何の罪科もないのに痛い目に遭うという状況が、今の日本ではざらにあります。そんな日本のねじれた感じが描ければいいなと思いました」

プログラムの中で橋口監督は、そう語っていたが、見事にリアルな人間の実存と、顔や名前が出ない所で偏狭な差別が渦巻く日本の今を映像化してくれたように思う。

「外に向かって開かれていく、ささやかな希望をちりばめたつもりです」と語るラストシーンも強く印象に残った。
(エンドロールで流れた主題歌、Akeboshiの「Usual life_Special Ver.」もグー!)

※今日は、午後3時から神保町でインタビュー取材。6時から石神井で、息子が保育園に通っていた頃の“送迎仲間”Kさんと7、8年ぶりに一献。(Kさんは、漫画本の出版で有名なA書店の元・編集者。確か「ブラック・ジャック」担当だったはず……久しぶりに、楽しい話ができそうだ)